大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)371号 判決 1965年8月24日

上告人

山崎誠一

右訴訟代理人弁護士

増岡正三郎

増岡由弘

金田善尚

被上告人

昭和産業株式会社

右代表者代表取締役

当摩喜蔵

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人増岡正三郎外二名の上告理由第一点について。

原判決挙示の証拠によれば、所論の点に関する原判決の認定した事実を肯認しうる(所論の甲各号証についての原判決の説示も正当として是認しうるし、所論の乙第一号証についてはこれを、措信していないことは原判決の判文上明らかであつて、これを事実認定の資料に供した旨の論旨は、原判決を正解しないことによるもので、いずれも、採るを得ない。)。

所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨判断または事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。

同第二点について。

原判決挙示の証拠によると、所論の点についての原判決の認定した事実はこれを肯認しうるところであり、しかも原判決の適法に判示するところによると、本件立木が上告人の所有でなかつたということは認められないというのである。

したがつて、上告人において本件立木の売買契約について要素に錯誤があつたことないし被上告人において上告人を欺罔したものということはできず、また、被上告人が売主としての瑕疵担保責任を負うべきいわれはないというべきであり、この点の原判決の判断は、当審も正当として是認しうる。

なお、所論中には、上告人の唯一の証拠方法を却下した旨の主張もあるけれども、本件記録によれば、所論の日付の証拠申請のうち、上告人本人山崎誠一を採用し、同人を取り調べていることが認められるから、原審が、所論部分の証拠の申請を採用しなかつたとしても、所論のように唯一の証拠方法を却下したことにはならない。

要するに、原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の裁量に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提としてこれを非難するものであつて、採用しがたい。

同第三点について。

原判決が、本件準消費貸借に基づく金員の支払請求については、特別の事情のないかぎり、債務者は右支払確保のため振り出された本件各手形の返還と引換えに支払うべき旨の抗弁をなしうる旨を判示し、本件各手形と引換えに右金員および遅延損害金の支払を命じていることは、所論のとおりであるが、右金員の支払請求権と本件各手形の返還請求権との関係は、民法五三三条に定める対価的関係に立つ双務契約上の対立した債権関係またはこれに類似する関係にあるものということはできず、ただ単に、債務者に対し、無条件に原因関係である債務の履行をさせるときには、債務者をして、二重払の危険に陥らしめる可能性があるから、これを避けるために、とくに、本件各手形と引換えに右金員の支払を命じたにすぎないものと解される。したがつて、このような関係があるにすぎない場合には、債務者において原因関係の債務についてその履行期を徒過している以上、債権者から本件各手形の交付を受けなくても、債務者において履行遅滞の責に任じなければならないことはいうまでもないところである。

原判決には、所論のような違法はなく、所論は、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 石坂修一 柏原語六 田中二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例